”現実的”な有害物質の除去技術とは何か?

 多種類の有害物質が氾濫する現代社会において、シックハウス症候群やアレルギーに悩む多数の人々がいます。生産・生活環境の中の有害物質を除去し、「快適環境を創造する」技術の開発は大変重要であります。
 しかしながら、有害物質を除去する為に、膨大なエネルギーを消費し、高価な設備を必要とする技術であれば、本質的な問題解決にはなりません。生産・生活環境での有害物質の使用を制限することが根本的な対策でありますが、現実には、拡散した有害物質を除去する対策技術も必要不可欠であります。

   根本から新しい技術を考える

室内環境汚染への社会的関心の高まりから、多数の空気清浄技術の研究が行われてきています。しかしながら、問題の重要性に比較して、その多くの技術は、既存のフィルター法、活性炭等の吸着剤による除去技術を単に転用したもので、その処理能力や処理量に疑問を持つものも多いのが現状です。そこで、従来の技術延長ではなく、有害ガス成分を効率良く除去し、しかも大量の空気の処理を行える革新的な空気清浄技術の開発を行ってきました。

   ”快適環境を創造する”

近年、「拡散スクラバー法」を用いた簡便な装置で大容量の汚染空気中の有害ガスを循環効率的に除去する技術を開発し、その研究成果は第28回環境賞・優良賞を受賞しました。これらの研究成果を基に様々な生産・生活環境における快適空間環境を想像する技術として、室内汚染(窒素酸化物、VOC)を効率的に除去できる高性能の浄化装置を基に事業化を図っていきます。

住宅、ビル、トイレ、病院、美術館、クリーンルーム、動物飼育舎等の様々な生産・生活の室内環境において、拡散スクラバー法による空気清浄技術が、国内外で広く利用され普及することが期待でき、私どもの研究開発が社会に貢献できるのではないかと考えております。

 

代表取締役 白井達郎 




快適環境を創造する研究

 有害物質が氾濫する現代社会においては、ごく微量でも有害性を発する物質が数多く検出されています。微量な有害物質について、生産・生活環境中でその実態を把握し、対策を行うことは、“快適環境を創造する”上で必要不可欠です。慶應義塾大学理工学部環境化学研究室の研究グループは、多孔質テフロンチューブを用いて、“拡散スクラバー法”による大気中微量ガス成分の測定法に関する研究を1990年代から着手し、大気中酸性・塩基性ガス(HCl,HNO3,SO2,NH3)、アルデヒド(HCHO,CH3CHO)、窒素酸化物(NOx)、過酸化水素(H202)の自動連続測定装置を開発してきました。


拡散スクラバー法とは・・・

“拡散スクラバー法”は、ガスの拡散を利用したガスの捕集法であり、例えば、多孔質テフロン(PPTFE)チューブに空気を流すと空気中のガス成分は拡散し、多孔質テフロンチューブ内壁の孔を通過します。
多孔質テフロンチューブの外側にガスを吸収する水等を配置しておけば、そのままガス成分を吸収することができます。又、空気中の粒子は、ガスと異なり拡散係数が小さいので、そのまま空気の流れと共に多孔質テフロンチューブを通過します。従いまして、シンプルな多孔質テフロンチューブのみを用いるだけで、粒子と分別して、空気中のガス成分のみを捕集することができる画期的なガスの捕集法と言えます。


拡散スクラバーによる空気清浄技術と計測技術の研究開発

 1997年からは、科学技術振興事業団・戦略的基礎研究プロジェクトにより、(株)島津製作所と共同で開発した多孔質テフロンチューブを用いた拡散スクラバーによる大気汚染ガスの自動連続測定装置を沖縄、隠岐、利尻等の離島に設置し、大気汚染ガス成分のバックグラウンド濃度を長期間自動連続測定することにより、東アジアからの越境大気汚染の実態を明らかにし、地球大気環境の研究分野での東アジアの大気観測データを提供することに貢献できました。

 そして、大気中酸性・塩基性ガスの自動連続測定装置は、現在、半導体製造のクリーンルーム内でのガスモニタリング装置として横河電機(株)により製品化され、本ガスモニタリング装置は、2000年5月に(社)空気清浄協会・技術賞を受賞いたしました。

 この様な研究成果を基にして、2001年には、神奈川高度技術支援財団・地域研究開発促進拠点支援(RSP)事業により、「拡散スクラバー法を用いた空気清浄技術と計測技術の開発」の研究プロジェクトが始まりました。“拡散スクラバー法”を用いた新しい室内空気汚染物質の簡便な測定装置の実用化を目指して、ガス検知管で知られている(株)ガステックと共同研究を行いました。

 “拡散スクラバー”をミニチュア化し、有害ガス成分をわずか1ml程度の極めて少ない溶液中に捕集することが可能となれば、旧来の比色分析でも十分に測定が行えますので、結果的に高感度で優れた機動性を持つ新たな有害ガスの分析手法となります。
 従って、従来の高価で比較的大きな機器分析装置を用いてラボにおいて行っていた分析を、安価で容易に持ち運べるコンパクトなLED(発光ダイオード)簡易比色計を用いて現場で行い、現場のリアルタイムでの有害ガスの測定が可能となりました。



研究成果の普及にむけて

 2003年4月に、その研究成果が認められ、「ミニチュア拡散スクラバーによる室内空気汚染ガスの簡易測定装置」が、第15回「中小企業優秀新技術新製品賞・優秀賞」(りそな中小企業振興財団、日刊工業新聞社主催)を受賞することとなり、又、2003年度の科学技術振興事業団・独創モデル化事業に採択され、「ミニチュア拡散スクラバーによる室内空気汚染ガスの簡易測定装置」は、(株)ガステックにより製品化され販売されました。

 更に、2004年度の科学技術振興事業団・独創モデル化事業に、「ミニチュア拡散スクラバーとLEDを組み合わせた安価な大気汚染ガス自動連続測定装置」が採択され、東京ダイレック(株)により開発された装置の製品化と販売が予定されています。従いまして、今後、様々な生産・生活現場において“ミニチュア拡散スクラバー”による簡易モニタリング装置が国内外で広く利用され普及することが充分に期待できます。



実用化にむけた研究活動

 この様に、“拡散スクラバー法”によるガス成分の捕集の研究は、主に、環境計測技術として展開して参りましたが、並行して、“拡散スクラバー法”を用いた有害ガス除去処理技術を応用した新しい空気清浄技術の実用化を目指して、ここ数年来、三機工業(株)と共同研究を行ってきました。

“拡散スクラバー法”は単に環境計測技術としてばかりではなく、有害ガス成分の除去処理と言った空気清浄の環境対策技術として発展することが期待できます。“拡散スクラバー法”は、空気を濾過して処理を行うフィルターや活性炭等の吸着剤とは異なり、通気抵抗が極めて少なく、簡便な装置により連続的に大量の汚染空気を処理できます。そして、2001年度に、関東経済産業局・即効型地域新生コンソーシアム研究開発事業(神奈川高度技術支援財団を管理法人、東京ダイレック(株)を共同研究企業)である「拡散スクラバー法を用いた循環効率的な空気清浄装置の開発」、又、2002年度には、文部科学省・大学等発ベンチャー創出支援事業である「快適環境を創造する室内空気汚染物質の高性能浄化装置の開発」の研究プロジェクト(慶應義塾大学知的資産センターをマネジメント事業者、東京ダイレック(株)を共同研究企業)を進めてきました。これらの研究プロジェクトで開発された空気清浄技術の研究成果は、2004年9月でのイノベーションジャパン2004(経済産業省、文部科学省共催)において、「UBSイノベーションアワード・特別賞」を受賞しました。


大学発ベンチャーの設立ならびに活動実績

これまでの研究成果を更に発展させるために、2005年4月1日に、慶應義塾大学発研究開発ベンチャーである株式会社STAC(Standard Technology for Air Cleaning)を設立いたしました。

 株式会社STAC設立後、2005年度経済産業省の中小企業・ベンチャー挑戦支援事業の「家具・事務機器からの有害物質の放散量の計測と削減システムの研究」が採択された他、2006〜2007年には経済産業省の地域新生コンソーシアム研究開発事業(管理法人・(財)金属系材料研究開発センター)が採択され、潟ニチカ、潟Wャパンゴアテックス、蒲ム塗装工業所と共同で、「塗装・印刷工場から排出されるVOCの循環効率的な除去処理技術」の研究を進め、この研究成果を基にして2008年から3ヶ年の予定で環境省の環境技術開発等推進費による「二酸化炭素を排出しない排ガス中VOCの循環効率的な除去処理技術の開発」を現在進めています。これらの研究成果を基にして、住宅、ビル、トイレ、病院、美術館、クリーンルーム、動物飼育舎、塗装・印刷工場等の様々な生活・生産の室内環境において、拡散スクラバー法による空気清浄技術が、国内外で広く利用され普及することが期待でき、私どもの研究開発が社会に貢献できるのではないかと考えております。

 最後になりますが、紹介させて頂いた研究成果に御関心頂き、今後とも色々と御指導・御鞭撻頂けると幸いです。

技術担当取締役 田中 茂